2010年6月13日、7年の時を時を経て「はやぶさ」が舞い降りる。しかし・・・彼の姿を見る事はない。

6月10日の朝日新聞・天声人語に宇宙を飛ぶ鳥「はやぶさ」の記事が載った。以下はその全文である。(著作権があるので、削除しなくてはならないと思うけれど、それまでは)
彼が燃え尽きてしまうなんて知らなかった、舞い降りるとばかり思っていた・・・。


<河原の石ひとつにも宇宙の全過程が刻印されている>と言う、奥泉光さんの芥川賞作「石の来暦」の冒頭は印象深い。ふだんは石ころなどとさげすまれる。しかし沈黙の奥に、聞こうとする耳には聞こえる悠久の物語を秘めてもいる。

太陽系が誕生して46億年がたつ。往古の姿を今に保つ小惑星に向けて、小石などの採取に飛び立った探査機「はやぶさ」が、7年ぶりに地球に帰ってくる。機械の故障で石は難しかったようだが、砂などが採取できたのではと期待されている。

成功していれば快挙である。これほどロケットが飛ぶご時世でも、他の天体の表面から持ち帰った物質は、かの月の石だけだ。はやぶさは20億キロの長旅をへて、長径わずか500mの小惑星イトカワに着陸した。

帰路は苦難に満ちていた。エンジンなどが次々に壊れ、帰還を3年遅らせた。動いているのが奇跡なほどの満身創痍で、40億kmを乗り切ってきた。機械ながら健気で頑張りが、帰還を前に静かな共感を呼んでいる。

漫画家の里中満智子さんは応援イラストを書いた。傷だらけの鳥ハヤブサが懸命に宇宙を飛ぶ。「ぼく がんばったよ」「もうすぐ かえるからね」。吹き出しが涙腺をじんわり刺激する。賢治の名作「よたかの星」をどこか彷彿とさせる。

13日夜、はやぶさは大気圏に突入して燃え、流れ星となって消える。わが身と引き換えに回収カプセルだけを地上に落とす。砂一粒でも入っていれば、さまざまな物語を聞かせてくれるそうだ。遠い空間、遠い時間からの語り部を待ちたい。

【天声人語より】


2010年6月10日現在、地球から1,566,720km、かに座方向近辺をひたすら地球に向かって飛んでいる。